ウォーウルフキングをあやつが倒したあとから数日後……旅の目的地となっていたシルフィーネ村にようやっとたどり着いたわ。「ここがあのじじいが言っておったシルフィーネ村か」思ったことを口にしておると、あやつが窘めにくる。「じじいって、国王だぞ」見たままを言っておるのにのぅ。「あんな老いぼれをじじいと言って何が悪いのじゃ。 事実を言っておるだけじゃ」そう反論をすると、あやつは首を振りながら頭を抱えてしまった。「はぁ……」何ため息をついておるんじゃ。あやつは呆れておるのか。「事実だろうが言っていいことと悪いこととがあるんだって」怒りながらワシを見て諭すように話してきた。「………… ……って、なんで剣から出てる?」今頃気づくか。反応が遅いのぅ。だいぶ前から外に出ておるのに。「この間は剣を握ってないと出てこれなかったじゃん」あやつは驚いた顔をしながら、ワシを見ておる。「さぁ、何故じゃろな」ワシにもようわからんが……出れるようになったみたいだから、出たまでじゃ。「村の中で、ゾルダが姿を現わしていたら、村の人が怖がらないかな」血相を変えてワシに顔を近づけてくる。「まぁ、大丈夫じゃろぅ。 おぬしがおれば、何せ、勇者御一行様だからのぅ」ワシは元魔王とは言え、この姿は魔王には見えんからのぅ。見た目はそう人族の女と変わらんからのぅ。「それより、今のおぬしの態度の方が怪しいぞ」あやつは動揺しているのか、挙動不審になっておる。「いや……でも……元だとはいえ、魔王だったんだし。 お前のことは魔王と知られているんじゃないのか?」なんだ。そんな心配をしておるのか。「ワシが魔王だったころからだいぶ経っておる。 たぶん誰もワシの顔なぞ知らんじゃろ。 一応身なりも人に近いしのぅ。 おぬし、気にしすぎじゃ。 器が小さい男じゃのぅ」こんなもん、堂々としておれば、だいたい気づかれんもんじゃ。「それより、何か言われておったじゃろ。 あのじじいに」旅立つ前にあれやこれやじじいからなんか話があったと思うが……まぁ、ワシはしっかりと聞いておらんからわからんがのぅ。何か言っておったぐらいしかわからん。「じじいは余分だって」あやつがワシが外に出れるようになったのを気にしすぎるものだから、話をちょっとそらしてみた。ワシも何故出れ
俺はシルフィーネ村へ着くと村長のところへ向かった。途中ゾルダが姿を現したところは、ビックリしたけど。周りの人たちも特に気にする素振りもないので、大丈夫かな。村の中で暴れなければいいが……村の長の屋敷へとたどり着くと、ドアをノックした。「コンコン」「アウレストリア王国の国王からの指令で来たアグリというものです」ドアを開けると、美しい女の人が出てきた。村の長というから、てっきりおじいさんが出てくるのかと思っていた。「お待ちしておりました。 国王様からは勇者様が来られるとの連絡をいただいています」美しい女性は穏やかな口調で話す。「私がこのシルフィーネ村の長、アウラと申します」丁寧な挨拶を受けて、中の応接間に通された。聞けば、アウラさんはシルフ族という種族らしい。人よりは長生きらしく、132歳とのことだ。応接間の椅子に座り、状況の確認をする。「国王からは魔物が増えてきているからという話でしたが…… 今の状況はどうなっていますか?」「はい。ここ最近いつもと違う魔物が増えてきて、往来も難しい状況でしたが……」アウラさんは険しい顔をして話を進めていく。「数日前から王都セントハム方面の森に出ていた魔物が突然姿を消したとの報告がありました」んっ?たしかその方向は、俺たちが来た方向の話だな。「突然姿を消した……」なんとなく思い当たるところがあるかもと考えながら、アウラさんの話を聞いていく。「はい。 急な話だったものですから、確認のため、森へ腕がたつ者を向かわせました。 その者からの報告ですと、やはり魔物がいなくなっていたとのことでした」あれ……もしかして……と考えていたら、ゾルダが割って入ってきた。「魔物とはこれの事かのぅ」ゾルダはどこからともなく、ウォーウルフキングの頭を取り出した。「……ヒィッ……」アウラさんがひきつった顔をして、目をそらす。しかし確認もしないといけないのか、意を決したように指の隙間から見ている。「は……はい この魔物でございます」アウラさんが確認できたのを見てか、ゾルダがウォーウルフキングの頭をしまった。どこにそんなものを隠しているのか……「そうか。 であれば、この魔物はこやつが倒したぞ」ゾルダは体面上、俺ということにしてくれたらしい。「なっ…なんと。 さすが勇者様でございます
昨日は勇者様が来られてバタバタだったわ〜。国王様から勇者様の召喚に成功したことは聞いていたけど。こんなに早く来ていただけるとは思っていなかったわ。たしかあの時は……~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「おい、お前たち。 急に魔物がいなくなった原因はつかめたのか」武装した中年の兵士、デシールが、若い兵士に対して声を荒げています。あらあら、そんな言い方しなくても……「申し訳ございません。 まだつかめておりません」若い兵士は直立不動でそう報告しています。やだわ……どうなったか原因を早くつかんでほしいわ。「さっさと探ってこい。 それでも、この村の強者たちか」さらに声を荒げるデシール。「デシール、そこまで言わなくてもいいですよ。 もう少し優しくしましょうね」私はデシールに向かい、そう窘めました。デシールは頭を掻き、苦笑いをしながら、私に対してぺこぺこと頭を下げます。若い兵士は、敬礼をしながら「承知 さらに手分けをして探ってまいります」と私とデシールに話すと、足早に森に戻っていきます。数日前に南の森の様子が変わってきたようでした。先日までの異様な雰囲気がなくなっていました。シルフ族の私は風の使い手でもあります。森を流れる風から、なんとなく様子がわかります。明らかに風の様子が変わっていたのです。そのこともあり、村の精鋭たちを集めて、南の森の様子を伺わせに向かわせました。その者たちからの報告もありましたが…うろついていたウォーウルフも姿は見あたらない。徘徊していたウォーウルフキングの姿も数日前から見ていない。そういう報告があがってきました。ただ原因はつかめなかていませんでした。私はこの森の通行を許可していいものかを考えていました。「原因がわからない以上は、いつ危険になるかわからないしねぇ。 いなくなった原因さえつかめれば……」そんな時でしたね。「コンコン」扉をノックする音が聞こえます。「アウレストリア王国の国王からの指令で来たアグリというものです」扉の向こうから男の人の声が聞こえてきます。んーっ……国王の指令……?もしかして……もしかしてもしかして……あ……あの……勇者様!?森でのことがわからず難しい顔をしていた私の顔が、いっきに綻びます。噂に聞い
北西部周辺に出立する前に、村の長であるアウラさんのところへ行った。「これから北西部周辺の魔物の殲滅と調査をしてこようと思います」元気よくアウラさんに挨拶も兼ねて伝える。「早速ありがとうございます」アウラさんも深々とお辞儀をして、俺に感謝の言葉を言ってくれた。「俺もまだまだ強くならないといけないので、時間をいただくことになるとは思います。 ただ、必ず正体を突き止めて、村を平和にしていきます」まだ俺自身の力に自信があるわけではない。でもゾルダと一緒ならなんとかなるかもしれない。「期待しています。 私に力がなれることがあれば、いつでもおっしゃってください」アウラさんからそう期待されるとついつい強気になってしまう。でも俺の力だけではどうにもならないこともあるかもしれない。ゾルダの力でもだ。まぁ、ゾルダは戦闘では負けないと思うけど、力だけでなんとかならないこともありそうだ。「その時はお力を借りると思います。 では行ってきます」アウラさんとの話が終わると、北西部に向けて歩き出した。「おぬし、用は済んだか。 さて、どんな強い魔物がいるのか楽しみだのぅ」ゾルダは戦いが出来そうなこともあって、上機嫌だ。機嫌がいいうちに、少しでも力を借りて魔物の殲滅をしていかないといけない。「さぁ、どんな魔物がいるか、様子を見ながら進んでいこう」北西部の森に入り、しばらく進んでいく。俺ではなかなか魔物の気配は察知できないので、ゾルダに確認をする。「ゾルダ、周りに魔物はいるか?」「…………」あれ?ゾルダから反応がない。「おい、ゾルダ」「……………………」返事がない。寝ているのか。ゾルダの援護がないなら慎重に進まないと……恐る恐る歩を進める。周りを警戒しながら。さすがにちょっとビビり過ぎかも。でもこの間のウォーウルフキングみたいなのが突然出てこられてもな。拓けた道ではあるが周りの様子を伺いながら進めていく。すると大きな木がたたずむ場所へと出た。「ずいぶんと大きな木だな。 なんの木だろう」上を見上げてみる。ガサガサ――――ガサガサガサ――――大きな木の枝が揺れる。「グォーーーー」1頭の熊が落ちてきた。落ちてきたのではない、降りてきたのだ。「うぁっ。なんだ、この熊は」慌てて剣を構える。大きさとしては2mぐら
あやつも順調に魔物を倒せるようになってきてるようだのぅ。最初苦戦しておったが、コツを教えたら、早く結果を出しおった。案外切れ者なのかもしれん。だいぶ倒してきたようじゃが……「今度はそうもいかんぞ」ちと違う気配がしてきた。そうあやつに伝える。「何かいるのか」そういうとあやつも臨戦態勢を整えた。「そうじゃなぁ 強い気配があちらからするのぅ。 たぶん、今までのやつらの親玉じゃろう」あやつと二人で気配がする方へと近づいていく。鬱蒼と生い茂る草場の陰から覗き込んで見てみると、そこに魔獣がおるではないか。「ほぅ、あれは…… 魔獣アウルベアだのぅ」どこかで見た覚えがあるやつじゃったが、確かそんな名前じゃったかのぅ。「アウルベア?」あやつは初めて聞く名前なのか、ワシに対して聞き返してきた。「頭がフクロウ、体が熊の魔獣じゃ。 ちと厄介じゃのう」単にガンガンとくるだけが能の魔獣とは違ったような気がしたのぅ。「厄介? 今までの魔物と違うのか?」あやつはすぐに質問してくる。分からんからしかたないのかもしれんんが……もう少し自分で考えないものかのぅ。「ちょっとばかり知能もあるから、いろいろ考えおる。 まぁ、ワシが出れば造作もないことじゃがの。 今まで休ませてもらったし、ここはワシの出番かのぅ」ワシは剣から飛び出して、アウルベアの方へ近づいていった。久々に少し手を煩わしそうな魔獣だのぅ。まぁ、今のワシにとってはまだまだ足りん相手じゃがのぅ。少しは運動になるやもしれん。久々の戦いに思わず笑みがこぼれてしまう。「さて、俺も協力する」そう言うとあやつも、ワシの後に続いてきた。「久しぶりじゃのぅ、お前らの種族と戦うのも」魔王になる以前じゃったかな。あの時はまだワシも力が乏しかったから苦戦したがな。「オマエハ……」片言の言葉でアウルベアはしゃべりだした。もしかして……「おっ、覚えているのか。 以前、ワシとやりあったはずじゃがのぅ」あの時のやつじゃったらと思うとさらに気持ちが高ぶってくるのぅ。「シラン……」そっけなく返されてしまった。さすがにあの時のやつではなかったのぅ。「違う奴じゃったか。 そうじゃそうじゃ、さすがにあの時のアウルベアも生きてはおらんな」自分で話をしておいてなんじゃが、だいぶ前のことじ
それにしても強い相手だった。頭と体が離れるなんてどうなっているんだ。苦戦はしたけど、なんとかアウルベアを倒すことが出来た。「なんとかだったのはおぬしの方だけじゃ」不意にゾルダがつぶやく。「ん…… そう思っただけじゃん。 ……って、心を読むなよ」実際に俺はギリギリだったんだし、ゾルダほど余裕がある訳ではない。「相変わらず不格好な剣技じゃのぅ。 なんとかならんのか」ゾルダがブチブチと文句を言う。「そう言われても、今までやったことないことだから。 なんとかなっているならそれでいいだろ」不格好でもいいではないか。俺は俺なりにやっているんだから。「こう、もっと、そうじゃのぅ…… かっこよく勝てんもんかのぅ」簡単に言うよな、ゾルダは。「…… 出来ればやっているよ。 いいだろ、結果出てるんだから」まだそこまで戦っていないんだから、無理は言わないでくれよと思う。「紙一重じゃ。 今のうちになんとかしないと、後で苦しむぞ。 結果だけじゃないぞ。 過程も大事じゃ」魔王のくせに正論をいいやがって。わからんでもないが、まともに言われると正直傷つく。「……善処するよ」そうボソッと答える。正論なだけに言い返すこともできない。「ワシが手ほどきしてもいいからな」相変わらず上から目線のゾルダだ。「考えておくよ……」そう言いながら、落ちた気持ちを奮い立たせようと、自分で両頬をパチンと叩いた。よし、気持ちを切り替えてと。ここ一帯はこれで落ち着くのかな。あとは何か手がかりがないかの調査をしないと。魔物が湧き出る洞窟か……だいたいこういう類いは、封印が解けたとか、いたずらで社の宝珠を持って帰ったとか、そういうものでしょ。でも、そんなことはアウラさん、言ってなかったな……「ゾルダ~。 お前も一緒に探してくれよ」ゾルダは疲れたのか、アウルベアとの戦いの後は、剣の中に入って出てこない。「ワシは嫌じゃ。 疲れたので休憩じゃ。 ただ索敵だけはしておてやるから安心せい」きまぐれというかわがままというか。魔王はそういうものなのか。「ここら辺りをくまなく探すというのは結構大変だぞ。 なんか魔力を感じたり、魔物が集まっていたり、するところはないの?」ゾルダが何か感じていないか確認をしてみた。「うーん。 そういう意味じゃ
勇者様は今頃は北西部を探索していらっしゃるでしょうか。もう魔物の殲滅は終わっていたりして。ウォーウルフキングの討伐もさっと終わらせていますからね。きっとあっという間に終わって帰ってこられるのでしょう。楽しみだわ〜。シルフィーネ村の民からのお願いや依頼ごとを確認しつつ、勇者様のことを思い出す。何故か彼の事ばかり考えてしまいます。もう少し仕事に集中しないと。昼過ぎからはなんでしたっけ……そうそう、集会所の床が抜け落ちそうなのを見に来てほしいと頼まれていたわ。確認をしてさっさと修理をお願いしましょう。まずはこの書類の山をなんとかしないと。集中してさささっさーとこなしていきます。私にかかればこれぐらいすぐに終わります。ただ何故か山にならないとやる気がでないのよね。だから周りからはあのことはどうなった、これはどうなったといろいろと言われてしまいます。……………………………………………………さてと、書類も片付いたことですし、集会所に行きましょうかね。村の中心部を歩いていると、市場の人たちが声をかけてくれます。「長、いい肉が手に入ったから持っていきな」お肉屋さんのブルーノさんが威勢のいい声で話しかけてきます。「ありがとうございます」ブルーノさんのところのお肉はおいしいので助かるわ。「アウラさん、うちの子見かけませんでしたか? 遊びに行ったきり帰ってこなくて……」今度はオレリーさんが、息子さんを探しているようです。「えーっと、たしか…… イリアスくん……でしたっけ?」「ちがうよ。 イリアスは、向かいのモスカんちの子だよ。 うちの子は、プラールだよ」あら、間違えて名前を憶えていましたね。「あー……そうでしたねー。 プラールくんなら、そこの広場で見かけたかなー」元気よく広場で遊んでいたのを通りがけに見たことを伝えます。「アウラさん、ありがとう。 あいつ、何を遊んでいるんだ」村の人たちはいろいろと話しかけてくれるので嬉しいですねー。たまにいろいろと忘れたり、ドジしたりしていますが、暖かく見守ってくれます。村の人たちといろいろと話しながら、集会所に到着しました。さて、集会所の床はどうなっているのでしょうねー。「長、わざわざ来ていただいて申し訳ございません」集会所を管理しているコンラッドさんが、困っ
シルフィーネ村の長のアウラさんに北西部の状況を報告した翌日。アウラさんが教えてくれた北東部の丘にある社を探しに向かった。ゾルダは相変わらず剣の外には出てこない。出てこないだけならいいけど、さっきから何かしら考え込んでいるようだ。「うーん…… どうじゃったかのぅ。 なんかこういうことが前にもあったような気がするのぅ……」それにしても大きい独り言だ。「ゾルダ、何を考えているのか知らないけど…… 頭の中に声を響かせるのはやめてくれないか」ガンガンと脳の中をこだまするような感覚で声が聞こえるのでたまったものではない。「ん? おぬしにも聞こえておったか。 そんなつもりではなかったのじゃが……」最近は剣の中にいても、ゾルダの声がはっきりと聞こえるようになってきた。レベルがあがってきたことと何か関係があるのかな。勇者としてのスキルはまだいまいちわからないが、魔王とリンクしやすくなってきたのは勇者のスキルなのかな……そんなことはないか。「さっきから何を考えているんだ」それだけ悩まれるとこちらも気になってしまう。「いや…… ウォーウルフにグリズリーだがのぅ…… どこかで一緒にいるのという話があった奴らじゃったと思うのじゃが、思い出せんのじゃ」以前に何かあったのかな……「それはゾルダが魔王をしていた頃の話か?」何の事か、ゾルダに確認をする。「そうじゃ! だしかゼドだったか、シータだったか…… 話を聞いた覚えなのじゃが……」魔王時代の話なのかもしれない。「ゼドは確か現在の魔王だったけ?」以前聞いたゼドの名前が出てきたので、ゾルダに聞き返す。「そうじゃ。 あやつはワシの直属の部下4人に次ぐ奴じゃったが…… 考えておったら、あやつの顔を思い出してきた。 ワシをこんなことにしおって。 ムカつく」ここでムカつかれても困るんだけどな。本題はウォーウルフとグリズリーの組み合わせのことなんだけどな。「ふぅっ…… 話がずれてきてるって。 今、考えていたのは魔物たちの話じゃなかったけ?」話を元に戻すために切り返す。「そうじゃった、そうじゃった」思い出したかのように声をあげるゾルダ。「そう言えば、シータっていうのは誰? 初めて聞く名前だけど」「おおぅ、シータはのぅ…… ワシの直属の部下の1人で、その中では一番弱
フォルトナが去ってからしばらくすると、街の中のいたるところから煙が立ち上った。それと同時に爆発音も響き渡る。「フォルトナ…… ちょっとやりすぎじゃないのか」想定よりも多くのところで事が起きているように感じた。「たぶんじゃが、フォルトナだけではないな」ゾルダがその様子を見て言った。「えっ、フォルトナだけじゃない? どういうこと?」一人で向かったし、他の協力者なんてこの街にはいないはず。「だぶん、小娘の配下たちじゃろう。 この手際よさ、速さ、小娘の娘だけではこれほど出来んじゃろ」そういうことか……それならなんとなく納得が行く。でも、いつ来たんだろう。まぁ、なんとなくフォルトナが心配だから、俺たちの後を数名追いかけていたのだろうけど……「そんなことより、どんどん鉱山からは憲兵がいなくなってきてますわ」マリーが指差す方を見ると、街の騒ぎを聞きつけてか、憲兵たちがその対応に出て行っている。もともとどれくらいいたかがわからないから、何とも言えないが、それなりの数が出て行った。その後も、あちこちで煙や爆発音がするので、憲兵たちはどんどんと街に向かっていた。「これなら、だいぶ手薄になったかな」憲兵たちの出入りが落ち着いたところで、俺たちは鉱山へと入っていった。だいぶ街中への対応に出て行ったためか、少人数の憲兵はいるものの、中には入りやすくなっていた。「ここまでは作戦成功ですわね」マリーが感心したような口ぶりで話しかけてきた。「そうだね。 ただ、この後は中がわからない以上、出たとこ勝負かな」そう、中の様子が全く分からない。どれだけの強敵がいるかもわからないし、まだもしかしたら奥には憲兵が残っているかもしれない。慎重に行動して、なるべく戦わずにいけるといいんだけど……「数も少ないし、人ばかりじゃから、おぬしだけでしばらくはなんとかなるかのぅ」ゾルダは相変わらず余裕な態度で後からついてくる。いざという時に頼らざるを得ないから、今はあまり力を使わせないようにしないと。「この調子なら、なんとかなると思うよ。 ゾルダは最悪の事態に備えて」「真打は最後……じゃからのぅ」高笑いをするゾルダ。まぁ、それはそうなんだけど……ゾルダの出番が少ない方が危ない状況じゃないってところなので、そちらほうが助かる。「マリーは手伝ってあ
宿屋の女の人からいろいろ聞いた翌日--情報の確認の意味もあって、みんなで領主の家へ向かったんだよねー。近くまで行ってはみたものの、憲兵たちが厳重に警戒していて、アリの子一匹入る隙すらなかった。「こりゃ、中に入ってとか言える感じじゃないな」困った顔をしながら、アグリがぼやいていた。「そうだねー。 ちょっとこれだとボクにも無理かな」外がこれだけ厳しいと、中もかなり厳重に守っているだろうなー。「だから、ワシが蹴散らしてあげようぞ」ゾルダは血気盛んに息巻いているねー。その方がゾルダらしいけど。「ちょっと待ってくれ。 ここではまだゾルダの出番は早いから。 もう少しだけ待ってくれ」アグリは慌てて止めに入る。なんかいつものやり取りだねー。「外からは様子は伺えないし、何があるかもわからないから。 いったん、ここは様子見で、鉱山を見に行こう」アグリは領主の家の調査は諦めたようだ。でも、これだけ警備が厳重なら、仕方ないねー。その判断が正解だよ。それから領主の家から離れたボクたちは北東の鉱山の入口へと向かった。山の麓にある入口もこれまた警備がすごかった。人の出入りはあまりなかったので、ずっと男の人たちは中で働いているのかもしれないねー。「こっちも凄いな…… これだけ憲兵を鉱山や家に回していたら、街の入口に人は割けないな」どうやら街の出入りを見張るより、こちらの方が大事なのかもしれないねー。「街の入口に誰もいなかったのは、アルゲオのこともあると思いますわ」マリーがキリっとした表情でみんなが思ってもいなかったことを口にした。そしてそのまま話を続けた。「アルゲオがここの領主の差金の可能性が高いですわ。 アルゲオが出ることで、他の街との行き来が出来なくなり、 結果として、入口の警備もいらなくなりますわ」確かにそうかもしれないねー。マリーってそんな分析できる印象ないんだけどなー。意外に考えてるなー。「たっ……確かにそうかもしれんのぅ。 マリーは頭がいいのぅ。 ワシも考えつかなかったことを……」ゾルダはマリーの頭をナデナデしていた。マリーは満面の笑顔をしている。「当然ですわ。 これぐらいマリーにかかれば、簡単ですわ」胸を張って得意げな顔をしているマリー。そんなに調子に乗らなくてもとは思う。「それはわかったけど
鬱屈とした雰囲気が街を覆っておるのぅ。なんじゃろうな、この居心地の良さは……たぶんワシらの仲間に近しいやつらが何かしていそうな気がするのぅ。街についたとたんに感じる雰囲気が人の街ではないように感じた。明らかに人ではない何かが支配しているのぅ。もしくは関係しているか……あやつは馬鹿正直に調査調査と言うが、この感じだけでもわかるじゃろうに……ホントに感が悪いのぅ。「なぁ、おぬし。 この雰囲気、感覚からして調査せずともわかるじゃろ。 人が作り出したものと違うぞ」街中の様子を探っているあやつに、ワシが感じたことを伝える。「そうなのか? マリーが聞いた人は税が高いっていっていたから、悪徳領主が何かしらしているんじゃないの?」あやつからは能天気な答えしか返ってこなかった。「それもそれであるじゃろうがのぅ…… それだけではこんなことにはならないとは思うのじゃ」「ゾルダの言うこともわかったから。 とりあえずはまだ街の中の様子を伺っていこうよ」あやつはすごく慎重にことを進めることが多い。そんなに慎重に進めても事は進んでいかなと思うのじゃがのぅ。「……勝手にせい」半ば投げやりにあやつの進め方を容認する。あやつに付いて街の至る所に行ってみたが、どこも人はまばらじゃった。男の人の数は少なくそれも爺さんばかり。逆に女や子供が多かった。店や宿屋も女が切り盛りしている様子じゃった。「なんかすごく男の人が少ないな」「そうだねー。 それに活気もなくて、報告と全然違うねー」小娘の娘も話の違いに戸惑っている様子じゃ。確かに、聞いていた話とは大きく違うのぅ。もっと栄えて活気があってというのが、街に出入りしている一部の人の話じゃったと……でももしかしたら、それが全部偽りということもあり得るのぅ。この感じからすると。「こうなると、聞いていた話が嘘じゃったということではないのかのぅ。 一部しか出入りしておらんということは、そやつらも結託しておるということじゃ」「そうなのかな。 アルゲオが出ていたことも関係しているかもしれないよ。 男の人は討伐に向かったとか」またあやつは呑気な考えをしておるのぅ。「ゾルダの言うことも考えとしてはあるんじゃないかなー 中を見ている人が少ないってことは。 結託しているかどうかはわからないけど、口止
ムルデの街が近づいてきた。城塞国家の様相で、一面が高い壁で覆われている。そのためか、中の様子は外からは伺えない。城門も大きな構えをしていて、そこでは関所さながらの入念なチェックが行われていると聞いた。高い城壁には憲兵が配置され、たとえ城壁を登ってもアリの子一匹入らせない厳重な警戒をしているとの話だった。そこまで出入りを徹底していると聞いたため、何か粗相をして入れなかったらどうしようと思うと緊張する。「何をそんなに緊張しておる 入れなくても、そいつらを倒せばいいことじゃ」ゾルダは相変わらず脳筋な考えをしている。たまにはしっかりと考えているときもあるけど、大体強さは正義的な考えだ。「マリーもねえさまの言う通りだと思うわ。 マリーたちを止められるものはないですもの」マリーもゾルダに影響されてか強硬派だ。まぁ、魔族自体がそういうものなのかもしれない。人の常識を当てはめてもとは思うが、でも今は人として行動しているのでなぁ。あまり強引に進んで事を荒立てたくはない。「ゾルダもマリーも頼むから自重してくれ。 なんとか通してもらうようにするからさ」しばらく歩くと、城門の前に辿りついた。門は固く閉じられている。ただそこには憲兵らしき姿は見当たらなかった。「あれー、ここに入門をチェックする人たちがいるはずなのになぁー」フォルトナも辺りを見回すが、本当に誰もいないようだ。「本当に誰もいないようだな。 勝手に入っていいんだろうか……」大きな城門の脇にある出入り用の扉を開くかどうか確認してみる。「ギィー……」鍵などはかかっておらず開いているようだ。「入れるようだねー」フォルトナは周りをさらに確認しているが、人の気配はなかったようだ。普段なら城壁の上にいる憲兵たちも見当たらないようだ。「誰もいないのであれば、入っていいのじゃろぅ さっさといくぞ」ゾルダは出入り用の扉を開けてズカズカと中に入っていく。「ちょっと待てって 普段と違うってことは何かあったってことだろ」そう言って、ゾルダを止めようとするが、お構いなしだ。どんどんと先に行ってしまう。マリーもそれについてさっさとついていく。俺とフォルトナは慎重に周りを確認しながら、恐る恐る扉の中へ入っていった。分厚い城壁の中を潜り抜け、街の中へ出ると……そこはよどんだ空気が
目の前に大きな氷のドラゴンが出てきたと思ったらさー。マリーがしゃしゃり出て、倒そうとしたけど、倒せなくてー。アグリが助けに入って、苦戦しているな―と思ったら……なんか剣とか兜が光りだしてー。光ったなーと思ったら、ドラゴンが真っ二つに割れていたんだけどー。というのがここ最近の流れなんだけど……「ボクの出番がほぼないってどういうこと?」確かに戦いには参加してなかったけどさ。「出番ってどういうことかな。 そういうメタい話は、欄外でやってよ」アグリがなんか言ってきたけど……「何、その『メタい』って言葉! 何言っているかわからないし」分からない言葉を聞いてさらにいらつく。もっとわかりやすく話してくれないかなー。「ごめんごめん。 出番というか、あのドラゴン相手だとフォルトナが戦うのは難しいし、 後ろで控えていたので正解なんじゃないかな」そう言われるとそうだけどさ。ボクに何も出来ることはあの場ではなかったのは確かだけどねー。「ムルデの街までの案内はよろしく頼むよ。 その辺りの情報は持っているんだろ?」アグリはボクを道案内としか思っていないのかな。確かにムルデまでの道のりの情報は母さんに聞いているからわかっているけどさー。「ボクは道案内だけじゃなくて、もっと他にも頑張れるんだから。 そっちも頼ってほしいなー」ちょっと気持ちが収まらないのでグチグチと文句を言う。アグリは苦笑いしながら「頼るところはきちんと頼るから。 機嫌直してくれ」とボクのご機嫌を取りに来た。まぁ、そこまで言うなら、仕方ないなー。「わかったよ。 ちゃんとボクにも役割ちょーだいね」そうアグリに言うと、先頭にたちムルデの街の方へ向かっていく。アグリは慌てた様子で、ボクの隣に並んできた。ゾルダとマリーは、後ろについてくるようだ。マリーは相変わらずゾルダにベッタリしているなー。「そう言えば、ムルデの街というのはどんなところなの?」アグリがこの後向かうムルデの話をしてきた。「ボクが聞いている話だと、なんかとても栄えていて、 人も温厚で、活気があるって聞いてるよ」「へぇ、そうなんだ」アグリはうなずきながらボクの話を聞いてくれた。「ただ、一部の商人や役人以外は、ムルデの街への出入りは出来ない状態なんだ。 街の人たちも、居心地がいいのか、誰一
「危ない!」思わず声を出し、体が反応してしまった。気づけばマリーの前に立ち、氷壁の飛竜の攻撃を受け止めていた。マリーはあっけにとられた顔をしている。「うりゃーーーー」さすがにアルゲオの攻撃は重たい。なんとか受け止めて弾き返したが、まだ手がジンジンとする。さて、この後どうするかな……マリーの力はたぶんもっと凄いのだろう。俺よりか遥かに。ただ前にゾルダもそうだったけど、何かしらが原因で力を出し切れない状態なのだろう。力を取り戻せるようになるまでは、俺もサポートしないと。ゾルダに一喝されたマリーはゾルダの下へと走っていった。涙がこぼれていたようだけど、力が出せないことがよっぽど堪えたのだろう。考えなしにアルゲオの前に立ったけど、どうしたものかな。さっきの感じだと、攻撃はなんとか受け止められそうだけど……俺の力でアルゲオは倒せるだろうか……手伝わせてよと見得を切った手前、やり切らないとな。思わず苦笑いになる。「おぬし、そいつを倒せるのか? ワシはいつでも準備万端じゃぞ」ゾルダはニヤリと笑いながら俺に言った。「やるだけやってみるさ」そう言うと俺は剣を構えて、アルゲオに向かっていった。「グォッーーーーーー」再び吠えるアルゲオ。そして翼を振り切ってきた。「ガーン」重い一手が剣を捉える。「ぐはっ」さっきも受けたけどかなり重いな。アルゲオの重みが一気に乗っかってくる。さらにアルゲオが攻撃をしかけてくる。翼をやみくもに振り回してくるが、すべて剣で受け止める。手数が多くてなかなかこちらからは攻撃が仕掛けられない。「大丈夫か、おぬし 受けてるだけでは倒せんぞ」マリーを抱きしめながら、俺に対しては煽りをいれるゾルダ。そんなことは俺でもわかっている。でも受けるので手いっぱいで、反撃が出来ない。「言われなくてもわかっているよ」前の俺なら、この攻撃も受け止められなかったのかもしれないが、なんとか受け止められている。そういう意味では成長出来ていると実感が出来る。でもここでは、もう一歩先、反撃できる力が欲しい。直接のダメージはないもののジリジリと追い詰められていく。やっぱり俺ではダメなのか。もっともっと強くならないと……力が、力が欲しい……そう強く願う。その時だった。剣と身に着けている兜が光だし共鳴を
「なんだ! あの大きいドラゴンは?」あいつが大きな声を出す。そんなに大きな声を出さなくても見ればわかるわ。「あいつは確か、アルゲオという氷属性のドラゴンじゃったかな。 氷壁の飛竜とも言われとるはずじゃ」ねえさま、さすがいろいろ知ってらっしゃる。「ボクも名前だけは聞いたことあるけど、実際に見るのは初めてだねー」フォルトナはずいぶん呑気に構えていますわね。「グォーーーーーー」氷壁の飛竜アルゲオが一吠えすると、猛吹雪がマリーたちに向かってくる。風雪に耐えながら、みんなが戦闘態勢を整え始める。特にねえさまからは闘志がみなぎって見えるわ。「さてと…… ワシの出番じゃのぅ」ねえさまが一歩前へ出るところにマリーが割って入ります。「ねえさま、ここはマリーに任せてほしいの」やる気まんまんのねえさまだけど、マリーもいいところ見せたいし。今回はねえさまには悪いけど、マリーに戦わせてほしいわ。「ん? なんじゃ、マリー。 お前がやるというのか……」ちょっと怪訝そうな口調でねえさまがマリーを見てきた。「ねぇ、お願い、ねえさま。 せっかく助けてもらったのだから、少しは役に立ちたいわ」ねえさまが戦いたいのはわかるけど、任せてばかりでは立つ瀬がないわ。ここは是非にでもやらせてほしいという思いもあり、今回は一歩も引かないつもり。「うーん。 仕方ないのぅ。 マリーに任せよう」マリーの覚悟を受け取ってもらえたみたいで良かったわ。ねえさまにいいところを見せないとね。「ねえさま、ありがとう」ねえさまの胸に飛び込んでお礼を言うと、氷壁の飛竜の前へと向かった。「なぁ、ゾルダ、マリーに任せて大丈夫なのか?」あいつが、何か心配をしているようだけど、これぐらいの敵、マリーは大丈夫。「まぁ、本来の力を出せれば、問題なかろう」ねえさまはさすがわかってらっしゃるわ。安心してマリーに任せてね。「さぁ、氷だらけのドラゴンさん。 マリーが相手しますわ。 かかってらっしゃい」氷壁の飛竜がマリーの方を向くと、また一吠えする。「ガォーーーーーー」そんな遠吠えを何度しても無駄ですわ。荒れ狂う竜巻のような風雪がマリーの方に来たけど、一向に気にしないわ。「それだけしか能がないの? このドラゴンさんは。 それ以外してこないなら、こちらから行くわよ」た
しかし、人というのは面倒じゃのぅ。いろいろ頼んだり頼まれたり。己の事だけやっておればそれでいいのではないか。あやつがいろいろと頼まれておるのを見ていると、そう感じたりするのじゃが……「のぅ、おぬし。 大変じゃのぅ。 いろいろと厄介ごとを引き受けて。 ワシじゃったらそんなこと聞かんがのぅ」次の目的地に向かう道すがら、あやつに問う。「そもそもそれが俺がここに呼び出された理由でもあるし…… 確かに何でもかんでもとは思うことはあるけど、 困っている人は放っておけないよ」あやつもあやつなりに考えるところはあるようじゃな。それでも引き受けておるところをみると、人がいいのじゃろぅ。それか、よっぽどのバカじゃ。「まぁ、ワシはゼドをぶっ潰せればいいし、 強い奴らとも相まみえることが出来ればいいんじゃがのぅ」長い間外に出れなかったのもあって、ゆっくりと外の世界を満喫したいとは思う。そうは思うのじゃが……「とはいえ、早くゼドをぶっ潰したいので、先を急がんかのぅ」とあやつを急かしてみる。しかし、あやつは、「急いで行ったら、俺が死ぬよ。 確かにゾルダは強いけど、俺はそんなに急に強くはなれないし、死んだら困るのはゾルダだろ」と正論を言ってくる。おぬしが弱いのはわかりきっておる。だから鍛えてきたのじゃが……確かにゼドたちと戦うには、まだ足りんやもしれぬ。ただ出会った頃に比べたら格段には成長しておるがのぅ。「わかった、わかった。 おぬしに死なれては、また剣の中じゃ。 おぬしのペースでいいのじゃが、ワシら気持ちもわかってくれ」急いても仕方ないので、しばらくはおぬしに付き合っていくしかあるまい。ゼドのところに行くまではのんびり構えておくかのぅ。そんな話をしながら、ワシらは砂漠を超えて、問題の山のふもとに到着した。「なんだか急に寒くなってきましたわ。 ねえさま、寒いですわ」マリーの奴はそう言うとワシにぴったりとくっついてくる。「今まで暑かったのになー 急に天気が変わり過ぎだよー」小娘の娘も寒さに震えだしてきたようだ。山頂の方を眺めると、雲で覆われて何も見えないのぅ。少し上の方を見ると一面が白く覆われておる。「いつもはこんな天気じゃないのかな。 これが異常気象ってやつなのかな」あやつも山を眺めながらそう言っておった
昨晩はなんかすごく疲れていた。宿についてベッドの上で横になってからの記憶がない。ゾルダやマリーが俺の部屋でなんか話しているような気がしたが……朝になりベッドから起き上がると、部屋は静けさが漂っていた。ゾルダたち3人は自分たちの部屋に戻ったのだろうか。寝ぼけまなこをこすりながら、昨日デシエルトさんが言っていたことを思い出す。『明日落ち着いたらでいいんだ。 昼でも食べながら、今の状況について話をさせてほしい。 国王様からも話が来ているのでな』確か、そんなことを話していたと思う。さて……今はどのくらいの時間帯だろう。閉まっている窓を開けると、まぶしい日差しが入り込む。人々は街を行き来し、活気にあふれていた。まだ建物の修復が終わっていないところが多いためか、その作業に追われている人たちもいた。空を見上げると……日は高く昇っている。…………「あーっっっっっっっっっっっ」デシエルトさんとの約束の時間が……全身から血の気の引くのを感じた。一気に目が覚める。バタバタしながら出かける準備をする。落ち着けと落ち着けと自分に言い聞かせながら。準備が終わると、俺は部屋を出てゾルダたちを呼びに行った。先日はここでノックをしてすぐ扉を開けて大変だった。いわゆるアニメや漫画のお約束シーンのような出来事だった。さすがに今日は大丈夫だろうとは思うが、ここは慎重に。慌てずノックだけして、話をしよう。「コンコン」「俺だ。アグリだ」すると中からゾルダの声がした。「遅かったのぅ、おぬし。 今日は全員服を着ておるから安心しろ。 入ってきても大丈夫じゃぞ」ある意味普通のことだが、安心して扉を開ける。中を見渡すと、相変わらずゾルダの横にベッタリしているマリーと大きく伸びをしているフォルトナもいた。「遅くなってわるい。 昨日デシエルトさんに昼に屋敷にこいと言われていたのを忘れていた たぶんそのまま次に向かうと思うから準備して行こう」そうゾルダたちに伝えると、皆が準備するのを宿の外で待つことにした。準備はすぐに整い、全員でデシエルトさんの屋敷へと向かった。時間も時間だったので、急いで向かうことにした。ゾルダは特に気にすることもなく「もう少しゆっくりでもいいじゃろぅ そう慌てるもんでもないのにのぅ そんなのは待たせておけばよ